今私たちが音楽の時間に最初に習うのは、ピアノの白鍵をCから次のCまで演奏する「Cメジャースケール」です。これが全ての基本となっています。
にもかかわらず、アルファベットの最初の文字「A」ではなくアルファベットの三番目「C」がこのスケールを表すために使われています。一体何故でしょうか?一番基準になる音にはアルファベットの最初の音「A」を割り当てるのが自然でしょう。
その前に音名についてもう一度確認しましょう。我々は音を表すために「A,B,C,D,E,F,G」の7つのアルファベットを使います。「G」の次はまた先頭に戻って「A」になりますね。7つのアルファベットが繰り返し使われて音を表しているわけです。
この繰り返し表れる7つのアルファベットの先頭は当然「A」ですね。アルファベットは「A」からスタートするからです。にもかかわらずこの「A」は「ラ」につけられました。その結果、「A」から次の「A」まで白鍵を演奏すると「Aマイナースケール」になります。
この「Aマイナースケール」は「Cメジャースケール」と同じくらいの重要性を持っていますが、現在においては「Cメジャースケール」のほうが圧倒的に重要だといえますから、現代の視点から考えてみるとアルファベットの最初の文字である「A」を「Aマイナースケール」のために使うのは不自然だと感じられるでしょう。
ではこれは次のようなことを意味しているのでしょうか。つまり「過去においてはマイナースケールのほうが重要であった期間が長かった」ということを意味しているのでしょうか。
調べてみると問題はどうやらそんなにシンプルではないようです。残念ながら、まだ私は答えをみつけられていません。
ただ色々面白いことが分かってきましたので列挙してみます。以下「西洋音楽史概説/門馬直美」を参照しています。
- ドレミと名前をつけたのは11世紀の僧侶「グイード」。自作と思われる賛美歌の各小節冒頭の歌詞「ut,re,mi,fa,sol,la」を用いた。
- 最初は「do-ド」ではなく「ut-ウト」が使われていたが、言いにくいので16世紀頃ごろに「do」に変わった。
- 最初は6音音階であって「si」はなかった。17世紀頃に足された。
- 8世紀グレゴリオ聖歌の時代に確立された旋法は、ギリシャ時代の旋法とはかなり異なる。例えばギリシャのミクソリディア旋法は現在のロクリアン旋法である。
- また8世紀の旋法で第一のものは現在のドリア旋法。
- ギリシャにおいては旋法といよりは「テトラコルド」といわれる四音音階の組み合わせで音階がつくられていた。また、現在のように下から上に登るのではなく、上から下に降りていくものと考えられていた。
- ギリシャよりもエジプト、メソポタミアのほうが当然だが先行して音楽を始めており、既に7音音階を使っていた。また特にアッシリアでは音楽を体系付けようとする動きがあり、惑星と完全五度を結びつけ、完全五度の繰り返しにより7音音階を導きだしていた。
- (これは私の推測だが)ギリシャ文明の多くをエジプト・メソポタミア文明におっているように、恐らく音楽についてもかなりの部分がエジプト・メソポタミア由来である。
このように過去の音楽の体系はかなり現在と異なっていたといえるでしょう。現在の視点だけから過去をみてしまうと、正確に物事を捉えられなくなることは、どんな領域においてあり得ることです。しっかりと資料にあたり、正確な理解をしたいものです。
ではまた。