「新しい和声」数字付き低音入門


40年ぶりの教科書変更

2015年春より東京芸術大学の和声の教科書が変わり、「新しい和声」が採用されることとなりました。正確にはわかりませんが1970年代より使われているようなので、実に40年ぶりの変更ということになります。東京芸術大学は事実上、日本の音楽大学のトップ校ですから、非常にインパクトのある変更といえるでしょう。

数字付き低音とは

さて、「新しい和声」の大きな特徴は、数字付き低音(Figured Bass)の採用です。数字付き低音とは以下のようなものです。(数字は本来縦に並びます。うまく表示できませんでしたすいません。)

数字付き低音

例えばCメジャーキーにおいて、Cの音に「5」と書いてあれば、これはCEGというコードを表しています。また「46」と書いてあれば、これはCFAのコードを表しています。つまり、数字がつけられた音の上部に、数字が示す度数の音を足す、という仕組みです。これによりコードを示しています。

この方式は比較的歴史が古く、特に古楽をやる人にとっては馴染みがある記号ではないでしょうか。伴奏部分に和音が示されておらず、もっぱら数字付き低音を読んで伴奏を考えるのが古楽の伴奏者が行うスタイルです。逆に言うとそれ以外の人にとってはあまり馴染みがない表記なのではないでしょうか。アメリカの音楽大学でも(一応私はデトロイト出身という設定なので、アメリカのことしかわかりませんが…)数字付き低音から始めるところはほとんどないと思います。基本的にはローマ数字によるアナライズ(Ⅰ Ⅳ Ⅰ46 Ⅴ Ⅰといった表記)が主流です。「新しい和声」を書かれた林先生は、パリ国立音楽院の様式にのっとったということなので、フランスでは主流な学習様式だということなんだと思います。

さて、この数字付き低音ですが、読み慣れていないとかなり苦労すると思いますので、今回はちょっとした解説をしたいと思います。特に、ジャズ・ポピュラーの系の方がチャレンジするときにつまづきやすいポイントにフォーカスします。

せっかく新しい教科書になったことだし、クラシックが専門ではないけれど読んでみようかなと思われる方は多いはずです。しかし、記号や用語がジャズ・ポピュラー系とは少し異なり、その点がハードルになりがちです。今回は、そんな方がスムーズに「新しい和声」に入っていけるように、という企画です。それではいきましょう。

数字付き低音読み方 ダイジェスト

さて、まずトライアドの基本形を示すには「5」を記します。もしくは全く何も数字をつけなくてもOKです。これは「1 3 5」という表記の、省略形です。いうまでもなく、ベース音の上に3度と5度が乗る形がコードの基本的な形ですから、「わざわざ1 3 5と書かなくてもいいだろう」という理由で、3もしくは5も省略されるわけです。数字付き低音は、当たり前のポイントは基本的に省略します。ですから、何が基本的な形なのか、そして何を省略しているのかを理解すると良いと思います。

またもう一点大事なことがあります。「5」と書いてあればこれは「1 3 5」であると申しましたが、この1度 3度 5度の音は、ダイアトニックスケールの音が選ばれます。ですから、CメジャーキーのときにCの音に5と書かれていればC E GつまりCメジャートライアドを示し、Aの音の5と書かれていればA C E つまりAmトライアドを示すことになります。「3」はMajor 3rdかminor 3rdかを特定しないということです。ダイアトニックスケール上で、3度上、ということを示しているということを確認してください。結果的にメジャーコードでもマイナーコードでも「1 3 5」と考えるわけです。

さて次は「6」です。これは「1 3 6」の省略形です。例えばCの音に「6」と書かれていればこれはC E AつまりAmの1stインヴァージョンを示しています。Eに「6」と書かれていればこれはE G CつまりCメジャートライアドの1stインヴァージョンを示しています。つまり、基本的には「6」と書かれていればトライアドの1stインバージョンと考えて差し支えないでしょう。

なぜ「6」と書くかというと、基本形「1 3 5」と「1 3 6」の違いが「6」だけだからです。この違いだけを示せば事足りるので、3は省略し、「6」と書くわけです。

次は「46」です。Cに46と書かれていれば、これはC F AつまりFメジャートライアドの2ndインバージョンを示します。「6」とだけ書くと、先ほどの数字付き低音と区別できないので「4」と「6」両方を示す必要があるわけですね。

これでトライアドの3つの表記法がわかりました。これが基本になります。まずこれを徹底的に覚えてください。そうしないと、その後の、セブンスコードを理解するのがかなり難しくなります。この3つがまず前提にあり、その上で異なる部分を数字で示すことになるので、基本形を覚えていないとかなり辛いことになります。まずは、この3つがスラスラ読めるようになりましょう。

フランス方式特有?

新しい和声ではパリ国立音楽院の方式にのっとっているということで、一般的な(何を一般的というかはとても難しいことですが…私がよく見る範囲では…です。)方式とは少し違うところがあります。これはもう、各国様式が異なるので、郷に入れば郷に従えということで、しっかり覚え直すしかありません。

dim5を示す5に斜線

まず一つ目、メジャーキーのⅦ度上にできるコード、Ⅶmb5(CメジャーキーであればBmb5)を示す場合には、5に斜線を引きます。この斜線はdimを表しています。BとFのインターバルがdim5なので5に斜線を弾いています。これはたまに見る方式ではあります。ただ少し特殊だと思ったのは、マイナーキーの2度上にもm b5が作られますが、この場合は単に「5」とだけ書けば良いとのことでした。おそらくドミナントコードの場合にはトライトーンが重要になるので、明示しているのだろうと思います。

導音を示す+

同じくm b5タイプのコードの表記についてですが、1stインバージョンの場合、「3 +6」と6に「+」をつけます。この「+」は導音の位置を示しています。CメジャーキーであればBの音が来る場所に+をつけて導音を明示します。Dの上に3 6と書かれていればD F Bになりますから、Bの音が導音になります。この音は6に該当しますから、導音を示す+を加えて+6と表記します。なかなか特殊だなと私は感じました。導音を常に明示するのは結構大変ですね。

ローマ数字+アラビア数字

数字付き低音とは別に、Ⅰ46といったローマ数字+アラビア数字の表記もあります。これは一般的にコードを示すために広く使われている方式です。旧教科書の島岡先生の本ではこれは使われず、展開形を示す記号が使われていました。Ⅰ46とはつまり、Ⅰ度上にできるコードのうち、数字付き低音的に46となる形のコードのことを示しています。簡潔に言えはⅠの2ndインバージョンです。数字付き低音とはまた別の考え方ですので、これも独立してなれるようにする必要があります。

まとめ

「新しい和声」に取り組む上で、まず課題になるのは数字付き低音に慣れることです。今回は数字付き低音の基本について説明しました。また、ローマ数+アラビア数字のタイプの表記にも習熟しましょう。次回は、ジャズ・ポピュラー的にこれまた馴染みの薄い「禁則」についてまとめたいと思います。

ではまた!

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