ライムタイプ—押韻の分類 / the 8 rise


the 8 rise

ライムという概念はヒップホップを通じて日本にも十分に知られるようになりました。直近では『How to rap』(P-vine books 、pp.101-107)の中の「ライム」のチャプターでも触れられています。また Wikipedia の「押韻」の項目でも一部触れられています。

しかし、英語圏のライム文化は、古代ギリシャにも遡ることのできる蓄積があり、その蓄積が日本で十分に紹介されているとはまだいえないと私は考えています。

そこで今回は、ライムがどのように整理されているのかを、バークリープレスから出版されている「Pat Pattison氏」のライムに関する著作から引用し、紹介したいとおもいます。

このような明確で体系的なライムの分類法が日本語で紹介されるのは、おそらくこの記事が初めてだと思います。(もちろんライムに関する経験的な知識は、各ミュージシャンがそれぞれに、深めています)この手法は、ヒップホップだけではなく、カントリー、フォーク、ロック、ポップス、といった全ての詩に広く適用可能な分析法です。

参考文献

すべて Pat Pattison によるものです。

  • Writing better lyrics: The Essential Guide to Powerful Songwriting, Writer’s Digest Books, 2010.
  • Songwriting without boundaries: lyric writing exercises for finding your voice, Writer’s Digest Books, 2012.
  • Pat Pattison’s songwriting: essential guide to rhyming: a step-by-step guide to better rhyming for poets and lyricists, Berklee Press, 2014.

オンラインコース(無料で受講できます)

ライムタイプとは何か?

Pat Pattison 氏は自身の著作とオンライン講義(Courseraのクラスなど)において、英語のライムは、「形式上の安定感」によって「5タイプ」に分類できるとしています。安定度の高い順に、以下の通りに分類できます。これら5つのライムタイプを知ることで、ライムの分析がかなりの範囲において可能になります。

  1. パーフェクト・ライム
  2. ファミリー・ライム
  3. アディティヴ/サブトラクティヴ・ライム
  4. アソナンス・ライム
  5. コンソナンス・ライム

次に、ライムタイプの詳細を解説する前に、事前知識として必要となる「シラブル」という概念について簡単に説明をおこいます。

シラブル

シラブルとは言語の音声上の「区切り」もしくは「つながり」に関する概念です。完全に説明することは難しいが、基本的には、英語の音声を理解するための概念だととらえてください。

V ( Vowel : 母音)C ( Consonant : 子音) の組み合わせによって英語の音声は成立しています。この組み合わせがシラブルです。(正確にはそうではないが、今回はそう理解していただきたい)

シラブルはCCCVCCCというモデルで把握することができます。つまり、母音 Vowel を中心にみて、その前後に子音(群) Consonant が最小で0、最大で3連続付加する、と見立てます。

次の例を見てください。

VC (母音が冒頭に配置され、子音が一つ後続するパターン)

  • an
  • on
  • in

CV (子音が冒頭に配置され、母音が後続するパターン)

  • bee
  • go
  • though

このようにV母音とC子音の連なり方を分析・分類していくわけです。

CVC (子音が冒頭に配置され、母音が後続し、最期に再度子音が配置されるパターン)

  • cat
  • big
  • love

CVCC (子音が冒頭に配置され、母音が後続し、最期に子音が2つ配置されるパターン)

  • land
  • cast
  • gift

CCCVC  (子音が冒頭に3つ配置され、母音が後続し、最期に子音が配置されるパターン)

  • strong

子音と母音の組み合わせに、ライムは着目するため、シラブルという認識が必要である

以上、シラブルに関するダイジェストでした。つまり「英語の音声」を「子音と母音の連続によって把握する」、という構造に関する知見がシラブル、である、とまずは雑な認識を持っていただければと思います。ライムが母音と子音の構造に関する体系である以上、この「シラブル」という概念を持った上で、続く本格的なライムタイプの分類に関するテキストを読んでいただきたいと思います。

ライムタイプの分類

ライムの安定度

ではライムタイプについて説明していきます。Pat Pattisonはライムを、その安定度によって分類している、と冒頭で申し上げました。では、Pat Pattison のいうライムの安定度とは何を指しているのでしょうか?

Pattison はまず「パーフェクト・ライム」を、全てのライムの中で最大に安定的なものである、と定義します。そしてパーフェクトライムを基準として、これよりも段階的に不安定になっていくライムを定義していきます。

パーフェクトライム

パーフェクト・ライムとは、2つのライムを比較した場合に、1シラブルをなすCVCという構成要素のうち(Cは子音、Vは母音をあらわす記号)、はじめのCのみが異なり、後に続くVCが一致する場合をいいます。

次に例をあげます。

  • fat/cat
  • beat/cheat

fat/catでは、冒頭の子音Cだけが「f」と「c」と異なりますが、後半の母音と子音の組み合わせ、つまりVCの部分は、同じですね。これが一般的にいわれるライムの一番原始的であり、一番「安定」した形です。つまり「最初の子音以外」は、「全て同じ」なわけです。だからパーフェクトライムなわけです。

また当たり前といえば当たり前なのですが、パーフェクトライムの冒頭の子音までも同じにしてしまうと、全く同じ発音になってしまいます。ですから、ライム全体の了解事項として、冒頭の子音は異なる、ということが前提になります。

次のリストは、1番(lead/weed)がパーフェクト・ライムになっており、数字が増えるにつれて安定度が下がっていくように並べられている。

  1. lead/weed (パーフェクト・ライム)
  2. lead/beep (ファミリー・ライム)
  3. lead/knee (アディティヴ/サブトラクティヴ・ライム)
  4. lead/scene (アソナンス・ライム)
  5. lead/food (コンソナンス・ライム)

実際にリストを上から下へ、順番に音読してみて欲しい。感覚的に、パーフェクト・ライムが最も「ライムしている」感じがすることが理解できると思います。そして番号が増えるほど、ライムをしている感覚が少しづつ下がっている、ということも理解できるはずです。

では、パーフェクトライム以外のライム対応の構造について述べていきます。

ファミリー・ライム

子音ファミリー

まず、音声学的に類似した「子音のグループ」を子音ファミリー( consonant families )と定義します。

次のリストを見てください。大きく分けると3つの分類ができます。つまり、「Plosives(破裂音) / Fricatives(摩擦音) / Nasals(鼻音)」の3つのグループです。この3つの分類の、同じグループに入っていれば、音声学的に類似した「子音のグループ」である子音ファミリーだということができます。

例えば、bとdは同じ「破裂音」のグループに入っていますね。またbとdとpとtは全て同じ、「破裂音」のグループに入っており、音が似ているという分類をしています。

Plosives(破裂音) Fricatives(摩擦音) Nasals(鼻音)
voiced(有声音) b,d,g v,TH,z,zh,j m,n,ng
unvoiced(無声音) p,t,k f,th,s,sh,ch

ファミリーライム

さて、子音ファミリーを理解したところで、「ファミリー・ライム」について説明していきます。

ファミリー・ライムとは、1シラブルをなすCVCのうち、はじめのCの音が異なり、Vが一致し、後ろに続くCが同じ子音ファミリーに属している場合をいいます。次の例はファミリー・ライムです。

  • feed/beat
  • vine/rhyme

1つめの例である「feed/beat」に関しては、最初の「f」と「b」の音は同じ子音グループでありませんが、次の母音である「ee」は共通しており、最期に「d」と「t」が同じ「破裂音」のグループに入っています。ですから「ファミリー・ライム」の定義に当てはまっています。

2つめの例である「vine/rhyme」に関しては、最初の「v」と「ry」の音は同じ子音グループでありませんが、次の母音である「i(スペルが同じ、ということではなく発音上、同じであるということ)」は共通しており、最期に「n」と「m」が同じ「鼻音」のグループに入っています。ですから「ファミリー・ライム」の定義に当てはまっています。

つまり、ファミリー・ライムはパーフェクト・ライムよりも「少しだけ」音が似ていないわけですね。このように、パーフェクト・ライムを完全に安定したライムと定義し、それよりも少しづつ不安定になっていく=つまり「あまり似ていない音が少しづつ増えていく具合」によって、ライムを分類していくわけです。

そして安定したライムと、不安定なライムを、用途に合わせてどちらも使いこなす、というのがライムのスキルだと定義することができます。

パーフェクト・ライムをファミリー・ライムに変換する

ではこのテクニックを活用して、パーフェクト・ライムをファミリー・ライムに変換してみましょう。パーフェクト・ライムは最初の子音だけが異なり、それより後ろは同じでした。ファミリー・ライムにするには、さらに後ろの子音を異なるものにすればよいわけです。ただし、2つの子音が「同じ子音ファミリー」に属していなくてはいけない、ということでしたね。

例)パーフェクト・ライム → ファミリー・ライムの変換

  • beat/cheat → beat/cheap
  • fat/cat → fat/mad

beat/cheatはパーフェクトライムです。冒頭のbとchという発音以外は同じですから。さらに、最期の子音をtではなくp(tとpは同じ子音ファミリーです)に変換することで、ファミリー・ライムに変換できます。

パーフェクト・ライムである「beat/cheat」とファミリー・ライムである「beat/cheap」を比べると「beat/cheat」のほうが音が似ているし、安定しています。しかし同時にスリリングさはありません。「beat/cheap」のほうが音は少し似てはいなくなりましたが、しかし斬新さはあります。このようにライムの具合をコントロールすることが、ミュージシャンの一つのスキルであるわけです。

アディティヴ・ライム/サブトラクティヴ・ライム

では次のライムタイプを解説します。アディティヴ・ライム/サブトラクティヴ・ライムです。

アディティヴ additive は加法、サブトラクティヴ subtractive は減法という意味です。両者の効果は異なりますが、使われているテクニックとしては同一です。

まずアディティヴ・ライムについて説明します。アディティヴ・ライムは、パーフェクト・ライムの変形と考えてよいでしょう。具体的には、1シラブルをなすCVCの構造について、Vの直後に続くCに更に、「追加のC」が足された場合をいいます。次の例は全てアディティヴ・ライムです。

  • free/speed
  • rock/box

1つめの例である「free/speed」がもし、「free」と「spee」だったら(そんな英単語はありませんが仮定として)、最初の子音が異なるだけなのでパーフェクト・ライムということになります。しかし「spee」の最期に「d」という子音が「追加」されているために、この「free/speed」はアディティヴ・ライムということになるわけです。つまり、パーフェクトライムの関係にある2の単語の片方の最期に、子音を追加すればいいわけです。

2つ目のrock/boxも同様です。スペルは異なりますが、カタカナで書くのであれば、ロックとボック「ス」という違いになります。

次の例は少しトリッキーです。

  • trick/risk

この例では、トリック、リ「ス」クというふうに、最期の「子音の前」に「s」を追加しています。このように追加する子音の位置は前後、どちらでもかまいません。

ファミリー・ライムとの組み合わせ

もちろん、パーフェクト・ライムに付加するだけではなく、既に述べた「ファミリー・ライム」と組み合わせることも可能です。これは少し高度なので、今すぐ理解するのは難しいかもしれません。

  • dream/cleaned
  • club/floods

サブトラクティブ・ライム

次にサブトラクティヴ・ライムを説明します。

アディティヴ・ライムでは、パーフェクトライムの最期に、子音を追加しました。(最期の子音の前でもOK) サブトラクティヴ・ライムは反対に、最期の子音を取ることで実現されます。

  • fast/class
  • dance/ass

「fast」の最期の「t」を取り除くと、fasになります。fasとclassはこれはパーフェクトライムの関係にあります。つまり、取り除いたときにパーフェクトライム、もしくはファミリーライムになる関係性のことです。

アソナンス・ライム

アソナンス assonance はV:母音を一致させる押韻の技法を指します。アソナンス・ライムはその別名です。 Pat Pattison の定義では、1シラブルをなすCVCのうち、はじめのCと後続のCがいずれも異なり、かつVだけが一致するライムを指します。簡単にいえば、最期の母音だけが一致します。

  • dive/ride
  • satisfied/rise
  • doom/booth

また、ファミリー・ライムにもなっていない点に注意してほしい。使われている子音の、属する子音ファミリーが異なることから、アソナンス・ライムに分類されているのであり、したがって安定度はファミリー・ライムやアディティヴ/サブトラクティヴ・ライムより低いということになります。

コンソナンス・ライム

コンソナンス consonance は語尾におけるCの一致を指します。

コンソナンス・ライムは、1シラブルにおけるCVCのうち、はじめのCとそれに続くVが異なり、後に続くCのみ一致する場合をいう。簡単にいえば、最期の子音だけが一致します。

  • fun/on
  • lose/eyes
  • push/dish

より詳しい議論に関しては最後にあげる文献を読んでいただきたい。

ライム・タイプのクリエイティヴィティ

本稿は国内におけるライムの議論を深めるために執筆されました。ヒップホップが90年代に日本を席巻したと同時に、ライムという言葉も輸入されたわけですが、そしてその実際的なスキルに関しては実地を通して成熟を迎えているわけですが、学術的な意味での分類というのはまだ日本には届いていないのではないかと思います。本稿の提供するライム分類が、より一層のライム文化の成熟に寄与できればよいなと考えています。

さて、Pat Pattison も述べていることですが、ライムをインスピレーションのみに頼るのは、簡単に限界を迎えてしまいます。もし、こういった分類を知らなければ、(大げさかもしれませんが)、常にパーフェクト・ライム、つまりほとんど同じ言葉を並べるライムしかできない可能性もあるわけです。常にパーフェクト・ライムしかないリリックは、経験的にいっても技術的に未熟であると感じるのではないでしょうか。そして、経験的にリリックは、パーフェクト・ライムと、それ以外の不安定なライムが、バランスよく、しかるべきに配置されているはずです。知識とスキルは決してイコールではありませんが、知識がスキルを底上げする可能性は大きくあります。今回ご紹介したライムタイプの分類が、寄与できるはずだと考えています。

また、ライムの分析、評価においても、ライムタイプという指標を導入することで、より明確な分析が可能になると考えます。私達がスキルが高い、と考えるリリックは、このバランスが絶妙です。その点を、ライムタイプという分類を通して明らかにすることができます。

もちろん、実際のリリックは、もっと高度なことが行われています。もっともっと進んでいます。しかし、そういったコンテンポラリーなスキルを分析する「基礎」にライムタイプ分類がなされるはずです。

ではまた!

the 8 rise

この投稿は役に立ちましたか? 役に立った 役に立たなかった 16 人中 14 人がこの 投稿 は役に立ったと言っています。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

以下の数式は「スパム対策」です。空欄に正しい数字をいれてください。お手数をおかけします。 * Time limit is exhausted. Please reload the CAPTCHA.