MPC2000XLに代表されるパッド付きサンプラー演奏のHow to 本、「Rythm and Finger Drumming ( http://bccks.jp/bcck/121096/info )」から、リズムについて書かれたエッセーの抜粋です。
グルーブのあるリズムをプレイすれば良いか、参考になれば幸いです。
What is a GROOVE
最高のグルーブをだしたいとビートに関わる人間であれば誰もが常に考えています。しかし同時にもはや「GROOVE」はマジックワードと化しており、これに関わる議論は怪しげな精神論から有名アーティストがいっているからというだけのチープなもの、それから本当に価値のあるものまで本当に様々です。もちろんこれはたった一つの答えが出るような簡単な問題ではありません。
ここでは私が考えるGROOVEについて書いてみることにします。
ズレとピッタリ
人間が演奏するといつもジャストタイミングだとは限らない。だからズレがグルーブの正体だという人もいます。これはある程度は当てはまるのでしょうが、僕が一番大事だと思うのは狙った場所にきっちりと合わせることです。ずれるよりもむしろ毎回きっちりと同じタイミングで演奏することがグルーブの秘訣です。このきっちりというのはイーブンな16分音符の上で演奏する、ということではありません。
例えばシャッフルでは偶数拍の16分が少し後ろにずれますよね?このずらし具合は何か意図がない限り、ビートを通して一定であるべきです。こうすることでグルーブが生まれます。これが場所によってずらし具合が異なるとグルーブがある演奏に聞こえません。このずらし具合が「きっちりどこも同じである」という状態、これが「狙った場所にきっちり合わせる」ということです。そして同時にこれがグルーブの条件だというのが私の一つ目の結論です。
規則正しいズレ
PARTⅡのなかでクリスデイブとジェイディラのもたったビートについて僕なりの解説をしたのですが、一見ランダムにずれていると思っていたビートが、よくよくみていくとかなり規則性をもってズレていることがわかりました。この「規則があるズレ」というのが、やはりグルーブの一つの正体だと思います。
次に僕がビートに関する本を書くとしたらこの「ズレ」だけに集中したいと思っています。この問題、非常に大事だと思うのだけど、語りづらい。そして分かる人はいわれなくても分かっている、という類いのテーマですよね。音楽理論全体がそうだといえばそうですが…。
本書できっちりしたビートを扱ったことによって、やっとレイドバックについて語る準備ができたような気がします。乞うご期待。
人文科学と自然科学
この「グルーブ」という問題に対して色々なアプローチの方法があるのですが、私はこの問題を「時間、音色、音量」という定量的な三要素でとらえてきました。この三者の関係がグルーブを形成すると。これはどちらかというと自然科学的なアプローチだといえると思います。自然科学的だから正しい、というつもりは全くありませんし、どちらか一方が正しいということはありえないでしょう。様々な手法があったほうがいい。
でも、私はミュージシャンで最終目標は自分がプレイすることなので、再現性がある手法であることが非常に大事です。「時間、音色、音量」で描かれた本書のグラフは、誰でも仕組みさえわかればビートを再現できるようになっています。
これによって、なるべく「グルーブ」という言葉を使わずに誰もが「グルーブ」に向かっていけるようにしました。つまり人によって異なる「グルーブ」という問題についてはほとんど正面からぶつからずに、けれど結果的に「グルーブ」という問題のかなり近いところまでいける、ということを目指したかったのです。
とはいえ、今回扱うことができたのはビートの初歩の初歩。本当にグルーブさせるには、シャッフルやスイング、それからジェイディラで取り上げたような「ズレ」の問題が残っています。これは本書では扱えませんでした。「グルーブ」に取り組むためには本当はこれらのテーマを扱わなくてはいけないと思うのですが、そのためにはまず「基本的にビートはどのようにできているのか」ということを伝える/理解してもらう必要があるなと以前から思っており、本書をつくる動機ともなりました。
グルーブの話になると基本的なことが抜けて、突然「黒人の」とか「ゆらぎが」といった検証不可能な話が始まってしまうようなところが今あると思います。そうではなくて、まずキックがあってスネアがあって、ということがベースにあるんじゃないかな、と。「そんなことはあたりまえだよ、わかったよ」、という状態に「楽器をやらない人もならないと」もっと深くて繊細なグルーブの話はできないと思うんです。楽器ができないとグルーブについて話をしてはいけないということでは決してありません。ただ、グルーブにまつわる壮大な文学的考察はたくさんあるのに、もっと「単純なビート」に関する具体的な考察が少ない。どこにスネアを入れるのか、スネアをどれくらい前に突っ込むのか、という具体的な考察が少ない。
具体的で再現ができる、演奏家にとって役に立つ情報がもっと増えればいいなと思います。コードやスケールに関する本に比べるとビートに関する本はまだまだ少ないので、どんな内容のものでも出てくれば役に立つはずです。
図のすごさ
私が好きな手法は、「図」を使うということです。図にするということは構造を示すということです。関係性を示すということです。逆にいえば図にできないということは、構造をまだ自分が捉えきれていないということでもあるので、自分の考えが明確かどうかのチェックにもなります。
本書の前半は、「右手」と「左手」でリズムをみていくよ、というシステムを図で明確に示すことができたと思います。長さや音色を無視して、とにかく左右の組み合わせだけでリズムを考えていきます!というのが図で打ち出せている。とにかく手順なのだ、と。次に後半ではまず空間を均等にGRIDで切っておいてそこに音が配置される、というリズムに関する基本的なシステムを一切説明してはいないのだけど、マス目で区切られた図が伝えることができたように思います。これを踏み台にしてさらにクリスデイブとジェイディラの項目では、その空間の区切り方が均等ではなく2つの構造が併存しているということを図示しました。ひとつひとつ説明をしなくても図が示す構造が自然と読者につたわり、具体的な手順の練習によってより深く理解していく、という道筋を示せたと思います。
もちろん本書の図は特別オリジナルということはありません。基本系は既にあって様々な文献で出てきます。ただ3の系列のリズムと2の系統のリズムが併存する図はオリジナリティがあるのではないかと考えています。私の知る中ではこういった図は使われていないので…この図によって一発で空間的に何が起きているかわかります。2系統のリズムと3系統のリズムがどのように絡み合っているのかがよくわかる。いいと思うんですよねこれ。
筋肉と重力とグルーブ
どうでもいい話が続きますが、これはページ稼ぎです。本は16の倍数のページでしか作れないようで、埋めないと白紙ができてしまいます。ということで続きますが、これは全くもって僕が感じているだけで検証もできないし、これを理解したからといって何か演奏に役に立つかというと全然そんなことはないので、小説だと思って読んでください。
なぜ我々がビートを感じるのかっていうことなんですけど、「地球に重力があって、人間に筋肉があるから」だと僕は思ってます。重力があるからジャンプしたら必ず落ちてきますよね。石も人間も。この世にある物質は須らく、重力という秩序の中で生きている。グルーブってある種の秩序・規則なんだってことをこの章の最初のほうで言わせてもらったのですが、この世界に生きている人はみんな重力という秩序の中にいる。精神世界で生きている人は知らないですけど。上がって落ちるという規則の中にいる。そしてそれを筋肉が感じている。筋肉を通じて重力という秩序を感じている。常に。これは言葉や論理とは全然違うレベルで人類の潜在的な感覚をつくっている。これがグルーブの起源なのではないか、と。仮説ですけど。こう考えると、人種によってグルーブ感が違うのもなんとなく理解できる。体格が違いますから、筋肉の量だったり足の長さが違うので、重力の感じ方がことなってくる。ガチムチの人はやっぱりハウスっぽいビートが好きですよね。よし。書ききった。
ということで皆さんフィンガードラム、エンジョイしてください。MPCを創ったAKAI社、それからサンプリングを発展させてきた多くのビートメイカー、ドラムレジェントに感謝と大きな尊敬を!
One comment