ネオリーマンセオリーをジャズに応用する /卒業論文の翻訳1 /A Neo-Riemannian Approach to Jazz Analysis / Sara B.P. Briginshaw


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以下の翻訳は、Briginshaw, Saraさんのネオリーマンセオリーをジャズスタンダードの分析に応用した論文です。

Briginshaw, Sara B.P. (2012) “A Neo-Riemannian Approach to Jazz Analysis,” Nota Bene: Canadian Undergraduate Journal of Musicology: Vol. 5: Iss. 1, Article 5.
Available at: http://ir.lib.uwo.ca/notabene/vol5/iss1/5

今回はその中から、ネオリーマンセオリーをジャズに応用した研究のリサーチと、さらに進んでこの研究はどのような観点でおこなわれるのかを示した箇所を、翻訳しました。ウェイン・ショーター、パット・マルティーノ、ポスト・ビバップ等々、馴染みのある名前が登場します。

前回ご紹介した内容からもわかるように、ネオリーマンセオリーは、機能和声の観点からは分析することが難しい音楽を対象として発展したセオリーです。具体的には、ロマン派の音楽を対象としてスタートしました。

ロマン派の音楽には間違いなく調性があります。しかし、例えばショパンに顕著ですが、あまりに半音階化が進み、メロディもコードも、どちらも調性から逸脱したものが頻出します。結果として、調性という観点から分析した場合に、明確に定義することが難しい箇所が何度も現れます。

これはショパンだけではありませんし、もちろんロマン派だけにとどまるものではなく、それ以降の印象派にも、もっといえばバッハの音楽にも含まれます。そしてジャズやポピュラーミュージックにも含まれます。つまり本質的に音楽に含まれる性質なのだ、というのがネオリーマンセオリーの基本的な姿勢です。そして、ではこういった性質をどう分析し、どう使っていくのか、というのが問題になります。

そこでネオリーマンセオリーでは「トランジション=変形」と「リレーション=関係」という二つの観点からコードの進行を分析します。前回登場した、P,R,Lといった変形と、N,H,Sといった関係のことです。

これによって、ファンクション=機能、つまりトニック・ドミナントという分析、もしくはキーに対して何度上にできるコードなのか(Ⅰ,Ⅳ,Ⅴ等々)といった分析をせずに、コード進行を捉えていくことができます。

この「機能和声とは異なる観点からコード進行を分析していく」ということがネオリーマンセオリーの特徴であり、そして非機能和声を分析するに適したセオリーである理由です。

ということで、今回はネオリーマンセオリーをジャズに活用する、ということについて書かれた論文の冒頭です。


 

Nota Bene: Canadian Undergraduate Journal of Musicology Volume 5 | Issue 1 Article 5 A Neo-Riemannian Approach to Jazz Analysis Sara B.P. Briginshaw Queen’s University, Canada

http://ir.lib.uwo.ca/cgi/viewcontent.cgi?article=1050&context=notabene

 

Neo-Riemannian theory originated as a response to the analytical issues surrounding Romantic music that was both chromatic and triadic while not “functionally coherent.” (1) This music retains some conventional aspects of diatonic tonality, though it stretches beyond the constraints as defined by earlier centuries.

ネオリーマンセオリーは、ロマン派音楽の分析の方法として生まれました。ロマン派の音楽は、伝統的な三和音によって構成される音楽であるにもかかわらず、半音階が多用されているため、機能和声の観点からは分析が難しかったからです。こういった楽曲を分析するためにネオリーマンセオリーが必要とされました。ロマン派の音楽は、伝統的な調性音楽の側面がありながら、同時に前世紀の音楽のルールからは逸脱しているのです。

Richard Cohn outlines the difficulty in assigning a categorical label to this type of music.

研究者のリチャード・コーンは、こういった分析上の困難さに対して名前をつけ、分類をしました。(筆注:以下の「3項目」は、情報が少ないため、不正確である可能性が高い。ただし全体として、一般的に考えられている調性よりも拡張された調性による楽曲の特徴をしめしている。つまり、ドビュッシーやラヴェルや、ビートルズやビルエヴァンスのようなハーモニーやメロディの特徴である。)

Firstly, the term “chromatic tonality” suggests pitch-centricity, which the music often lacks.

まず「半音階的な調性」です。これは音の中心性に関する用語で、しばしば音楽には中心性がない、ということを示しています。

Secondly, “triadic chromaticism” is also misleading in that it is too widely-encompassing of all chromatic harmony.

第二に、「三和音の使用による半音階主義」です。半音階的な和声が、あまりに広い範囲の調性をカバーしているように見えるため、捉えどころがない、ということを表しています。

Lastly, “triadic atonality” contradicts any tonal aspects of the music.

最後に「三和音による無調性」です。これは一般的な調性音楽に反しています。

After posing this conundrum, he offers the term “triadic post-tonality” (first suggested by William Rothstein) for much of the music composed in the latter portion of the nineteenth century.2

このナゾナゾのような用語を提示した後、最後に「三和音による脱調性」という用語を提示します。(William Rothsteinが最初に使用しました。)  19世紀の後半に作曲された音楽の多くがこの「三和音による脱調性」の音楽に当てはまります。

Jazz music shares many of the same technical characteristics as Romantic music and, based on these stylistic similarities, it is highly plausible that neo-Riemannian techniques could prove to be highly valuable and effective when analyzing this newer genre of “triadic post-tonality.”

ジャズとロマン派の音楽には、同じ技術的な要素が含まれていますし、様式も似通っています。そして、ネオリーマンセオリーの技術が、三和音による脱調性という特徴をもった新しいジャンルの音楽を分析するのに、有効であることは確かなようです。

The neo-Riemannian approach builds upon portions of musicologist Hugo Riemann’s functional harmonic theories by applying them to non-functional chords.

ネオリーマンセオリーの研究方法は、音楽学者であるフーゴー・リーマンの機能和声に基づいています。そしてこれを、非機能和声にも応用しました。

These chords do not interact with surrounding harmonies in a “key-defining manner” and do not rely on the resolutions that usually occur after “active” scale degrees like the leading tone.3

非機能和声とは、調性によって定義される和声とは関連を見いだすことができず、また解決を必要としない和音のことをさします。通常であれば導音のような音は、主音への解決が期待されますが、非機能和声はそうではありません。

NeoRiemannian theorists examine music using a transformational approach, meaning that a piece of music need no longer possess traditional diatonic root relationships in order to be analyzed.4

ネオリーマンセオリーの理論家は、音楽を「変形」という観点から分析します。結果としてコードのルートによって分析する伝統的なやり方をする必要がなくなります。

According to Jocelyn Neal, applying neoRiemannian principles to newer genres of music such as popular music and jazz has “opened up compelling avenues for interdisciplinary research.”5

Jocelyn Neal は、ネオリーマンセオリーの原理を、ポピュラーミュージックやジャズといった新しい音楽の分析のために使用することで、より広い範囲の音楽の「統一的な研究」へとつなげていくことができる、と主張しています。

This “instinctive” merge began with a generation of music theorists who grew up with and celebrated “the supposed collapse between ‘high’ and ‘low’ culture” of classical music and popular music.6

この本質的な統合は、一般的に対立していると考えられがちなクラシックとポピュラーミュージックを、どちらも愛好する新しい世代の音楽理論家によって進められるでしょう。

Steven Strunk and Guy Capuzzo have been the main pioneers in exploring neo-Riemannian jazz analysis to date.

Steven Strunk と Guy Capuzzo は、ネオリーマンセオリーをジャズに活用する研究のパイオニアであり続けています。

Some of Strunk’s first articles on the subject develop contextual operations for the analysis of seventh-chord progressions in post-bebop jazz while his article “Notes on Harmony in Wayne Shorter’s Compositions, 1964-67” investigates the jazz harmonies of Shorter in particular.7

Strunk は最初の論文の中で、ネオリーマンセオリーの手法を拡張し、ポスビバップジャズで使用されるセブンスコードの進行を分析しました。題名は“Notes on Harmony in Wayne Shorter’s Compositions, 1964-67”であり、特にウェイン・ショーターの分析をおこなってはいたが、これは単にそれだけにとどまらない研究でした。

Taking a different approach, Capuzzo studies the instructional work “The Nature of Guitar” by Pat Martino and surveys the overlapping relations between the manual and neoRiemannian principles.8

Capuzzo の研究はパット・マルティーノの教則本である“The Nature of Guitar”を調査し、ネオリーマンセオリーの原理との共通点を探るものでした。

This paper differs from the works of Strunk and Capuzzo in that it aims to provide a broader view of the intersection of neo-Riemannian theory and standard popular songs from a handful of jazz subgenres.

本研究は、Strunk and Capuzzoとは異なり、対象範囲をジャズの一般的な楽曲まで広げることを目的としています。

The following analyses examine lead sheets from the fifth edition of The Real Book, a detailed and widely respected collection of transcriptions of a primarily aural music.

分析対象としてリアルブック第五版を分析しました。これは本質的に楽譜に記されることのないジャズという音楽を丁寧に、かつ広範な楽曲を収録した譜面集です。

While the music may not have been composed by using neo-Riemannian techniques, it seems to hold the same core intent as the Romantic music for which the theory was created: to transcend the boundaries of traditional tonality through chromatic harmony and parsimonious voice leading.

こういった音楽はネオリーマンセオリーによって作曲されたものではありませんが、当初ネオリーマンセオリーが分析の対象として想定していたロマン派の音楽と、同じ要素をもっているように思われます。つまり伝統的な調性の枠は破壊され、全くダイアトニックではないコードが登場し、スムーズな声部進行によってのみコードが連結されるような音楽です。

For this reason, I will explore the extent to which neo-Riemannian techniques can be applied to the analysis of standard mid-twentieth-century jazz repertoire.

こういった理由で、私はネオリーマンセオリーを使って20世紀中期のジャズを分析したいと考えました。

 

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1. Nora Engebretsen and Per F. Broman, “Transformational Theory in the Undergraduate Curriculum: A Case for Teaching the NeoRiemannian Approach,” Journal of Music Theory Pedagogy 21 (2007): 39.

2. Richard Cohn, “Introduction to Neo-Riemannian Theory: A Survey and a Historical Perspective,” Journal of Music Theory 42, no. 2 (Autumn 1998): 168, http://jstor.org/stable/843871.

3. Steven Strunk, “Notes on Harmony in Wayne Shorter’s Compositions, 1964-67,” Journal of Music Theory 49, no. 2 (2005): 303, http://www.jstor.org/stable/27639402.

4. Engebretsen and Broman, “Transformational Theory,” 40.

5. Jocelyn Neal, “Popular Music Analysis in American Music Theory,” Zeitschrift Der Gesellschaft für Musiktheorie 2, no. 2 (2005): 1, http://www.gmth.de/zeitschrift/artikel/pdf/524.aspx.

6. Ibid., 2.

7. Strunk, “Notes on Harmony in Wayne Shorter’s Compositions,” 301-332.

8. Guy Capuzzo, “Pat Martino and the ‘Nature of the Guitar’: An Intersection of Neo-Riemannian Theory and Jazz Theory,” Music Theory Online 12, no. 1 (2006): 4, http://libres.uncg.edu/ir/f/G_Capuzzo_Pat_2006.pdf.

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